琉球大学 研究推進機構 戦略的研究プロジェクトセンター
とんがり研究:海洋生物

竹村明洋 教授 たけむら あきひろ

理学部 副学部長

海洋自然科学科生物系

亜熱帯島嶼科学超域研究推進機構長(併任)

サンゴ礁生物の環境適応 ~生理学的視点からの総合理解~

大学院生のころから魚類の生殖活動の生理的仕組みに興味を持って研究を続けています。琉球大学に赴任するまでサンゴ礁には関わりを持ったことが全くなかったので、当初サンゴ礁に生息する魚類の何を研究テーマにして良いかわからず、サンゴ礁に出かけて一日中魚の採集を行っていました。その中で、この海域に生息する多くの魚類が、月から得られる情報を利用して産卵の時刻合わせを行っていることに気づきました。すなわち、魚たちは満潮時刻に合わせて毎日産卵したり、特定の月相に合わせて月一回の産卵を正確に繰り返したりしていたのです。沖縄に来るまでは月の存在をほとんど意識してこなかったため、月が関係した産卵周期の存在は私にとって驚くものでした。それ以降、サンゴ礁生物がどのようにして潮の満ち引きや月の満ち欠けを認知し、内因性のシグナルに転換しているのかについて研究を進めています。

私にとって幸運だったのは、サンゴ礁での魚類研究開始時期と時間生物学の発展時期とが重なったことです。潮汐性や月周性の解明に生物時計の観点を入れることで、沖縄でしかできない特徴的な研究を進めることができています。

このプロジェクトで目指すこと

本プロジェクトでは、魚類の研究で得られてきた知見をサンゴ等へも展開し、サンゴ礁生物の環境利用と応答を統合的に明らかにしていくことを目指します。生命現象を時間軸から捉える時間生物学の分野では概日リズムの研究が中心です。しかし、概日リズム以外の生物リズムの研究をサンゴ礁で進めることで、時間生物学の分野に沖縄から新風を吹き込みたいと思っています。また、本プロジェクトではサンゴ礁生物の生命活動の一端を解明することから、研究成果は対象生物の成長や成熟を人為的に制御する技術開発へと発展する可能性を秘めています。研究を進展させることで、生物の利用や保全に関する新しい研究分野(時間水産学や時間保全学)の創出を目指し、地域社会へ貢献したいと考えています。

多様な環境に適応したサンゴ礁や干潟の生物たち:熱帯・亜熱帯のサンゴ礁や干潟に生息する生き物が利用する環境と周期性を示す。

 

主な論文

Takeuchi Y, Kabutomori R, Yamauchi C, Miyagi H, Takemura A, Okano K and Okano T (2018) Moonlight controls lunar-phase-dependency and regular oscillation of clock gene expressions in a lunar-synchronized spawner fish, Goldlined spinefoot. Scientific Reports, 8: 6208.

Ito-Takeuchi H, Takahashi K, Bouchekioua S, Yamauchi C, Takeuchi Y, Hur SP, Lee YD and Takemura A (2017) Importance of sandy bottom in coral reefs in oscillation of daily rhythm in a tropical wrasse Halicoeres trimaculatus. Chronobiology International, 16: 1–12.

Takemura A, Shibata Y, Takeuchi Y, Hur SP, Sugama N, Badruzzaman Md (2012) Effects of hydrostatic pressure on monoaminergic activity in the brain of a tropical wrasse, Halicoeres trimaculatus: possible implication for controlling tidal-related reproductive activity. General and Comparative Endocrinology, 175: 173–179.

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