学術ネットワーク Academic Network for Shurijo Reconstruction and Renaissance 琉球大学は、学術的な立場から首里城の再興に貢献します。

写真:河野哲舟

*琉大学術リポジトリの「首里城」検索結果が表示されます

講演要旨集

*口頭とポスターの両方で発表がある一部の講演は、両発表の要旨が共通しています。

*氏名の左肩にあるは発表者を示します。

演題は口頭発表が7題、ポスター発表が12題、基調講演が1題あります。以下、講演順に掲載します。

口頭発表

 

01

離島からみる首里城の歴史と文化に関する考古学的検討 -久米島の港と蔵元を中心に-

  主税英德(琉球大学 国際地域創造学部)

 

本プロジェクトは、久米島での考古学調査を通して、離島との交流からみた首里城と歴史と文化の一端を解明することが目的である。首里城に使用された顔料の一つが久米島産赤土であることや、陶磁器の出土様相で類似する部分がある点など、両者には歴史的なつながりがうかがえる。久米島において交流が探れる場所として、物流の拠点である「港」と人流の拠点である「蔵元」が挙げられる。しかし、現在までに本格的な調査がほとんどなく、その実態はよくわかっていないのが現状である。そこで、昨年度、別のプロジェクトで、具志川間切蔵元跡隣接地であり、かつ港周辺地区と推測される兼城地区の発掘調査を実施した。本発表では、この調査成果の一部と今後の調査計画について紹介する。

 

 

 

02(P02と共通)

首里城美術工芸品の現状とこれから ~修理と人材育成~

幸喜 淳(沖縄美ら島財団 総合研究センター)

 

1. はじめに

令和元年10 月31 日未明に国指定史跡で世界遺産でもある首里城跡にて火災が発生し、首里城正殿等を含む主要復元建物群が焼失・損壊しました。建造物の火災に伴い、施設内に保管されていた美術工芸品についても被害がありました。

令和2年度の各分野の専門家による調査の結果、1,510点の美術工芸品のうち、1,119点が焼失を免れましたが、絵画や漆器、染織の多くに、熱や水害などの影響による劣化が見られました。

2. 修理状況

火災から3年が経過し、昨年度より本格的な修理事業がスタートしました。火災による被害は、特に漆器の数が多く、280点を超え、被害の程度の重度な資料と軽度な資料を組み合わせて実施したとしても、修理にかかる期間も20年以上になるのではないかと考えられるほど、長期間に渡ります。そのため、安定的に修理を行っていけるよう修理技術者の人材育成が重要となります。沖縄県立芸術大学等の関係団体と協力し、修理技術者の育成を行っていきたいと考えています。

3. 人材育成事業

首里城再建に向けた取り組みの中で、人材育成の重要性が様々な場所から述べられました。琉球王国時代の伝統技術は、活用機会の少なさもあり、現在では技術継承が困難な状況です。沖縄美ら島財団では、令和2年度より文化庁の交付を受け、沖縄の伝統的建造物に必要な【漆塗装】【手作り赤瓦の製作と瓦葺き】についての技術伝承者を養成する事業を開始しました。

首里城再建や建造物文化財の安定的な補修等のため、引き続き人材育成活動を実施していきたいと考えております。

 

 

 

03(P03共通)

ヨーロッパに所蔵されている沖縄染織品調査について

新田摂子(沖縄県立芸術大学 芸術文化研究所)

 

沖縄県立芸術大学芸術文化研究所 伝統工芸研究室は、2017年・2018年にスイスのMuseum der Kulturen Basel、2019年ドイツのDeutsches Textilmuseum Krefeld、オランダのWereldmuseum in Rotterdamで沖縄染織品の調査を行った。

その結果、ヨーロッパの沖縄染織品には、日本本土や沖縄の博物館等に所蔵されている裂と同一とみられる裂が複数所蔵されていることがわかった。つまり、元々1つの衣裳が解かれて裁断され、ヨーロッパ、日本本土、沖縄に分散して所蔵されていると考えられる。

そこで、ヨーロッパに沖縄染織品をもたらした美術商J.Langewis(ランゲウィス)について調べた。その結果、彼は1952年から1958年に来日し、日本の染織品を蒐集していたこと、また沖縄まで足を運んでおらず、日本本土で沖縄染織品を蒐集したことがわかった。

今後は、J.Langewisによる日本での沖縄染織品の蒐集方法、日本本土とヨーロッパへの沖縄染織品の受容についても研究を進め、ヨーロッパにおける沖縄染織品コレクションの形成について明らかにしたい。

 

 

 

04

首里「瑞泉」環境をSTEAM/SDGs教育に活用するプロジェクト

古川雅英(琉球大学理学部)

 

首里城の立地や、正殿などの建造物の配置は、いわゆる「王城風水」に基づくとされるが、透水層である琉球石灰岩とその下位の不透水層との境界部に見られる「瑞泉」(飲用可能な美味しい湧水)の存在が大きな決め手になったと考えられる。湧水のある場所を拝所としても大切にしてきた琉球の人々にとって、湧水に恵まれた首里城とその周辺地域は、理想的かつ持続可能な都市作りを可能とする場であったと思われる。本プロジェクトでは、令和の首里城復興に併せて、このような地下水環境についても復活・保全を進める観点から、湧水・井戸の分布や水質・水量等について環境DNAも含めた調査研究を実施するとともに、次世代人材育成のため、文化・芸術的側面も加えたSTEAM/SDGs教育プログラムを考案中である。

 

 

 

05(P07共通)

首里城正殿復元に向けた首里城瓦に関する調査研究(試作試験)

花城可英・宮城雄二(沖縄県工業技術センター)

 

首里城の復元に向けて、国と沖縄県は連携して取組を進めており、工業技術センターは首里城瓦に関する研究を実施しています。

当センターはこれまで、瓦原料の調査、原料配合試験、焼成条件の検討を実施しており、今回その結果を元に沖縄県赤瓦事業協同組合の協力により、首里城瓦の試作を行いました。

原料配合から荒地作成までを当センターで、各瓦工場において既存の瓦金型を使用してプレス成形、乾燥、通常の赤瓦と同時焼成を行いました。その結果、各瓦工場で焼成した試作瓦の吸水率は10%前後と仕様案である吸水率12%以下となっています。

工業技術センターは今後、沖縄県赤瓦事業協同組合へ技術支援を行い、首里城瓦の安定的な生産に向けて、協力していきます。

 

 


06

未来の首里城等修復材の確保に向けた取組について

今田益敬(沖縄県農林水産部)

 

県内の森林は、古くから沖縄の歴史の中で、建築、土木、産業、生活用材や薪炭材等の供給地として常に木が伐り出され、沖縄の生活・産業・文化を支えてきた。往時の首里城正殿についても、県産木材が使用されていた。首里城正殿の建築材は、「寸法記(1768年)」では、オキナワウラジロガシ、イヌマキ、タブノキ、イジュなどの樹種が使用されていたと記されている。前回の首里城正殿復元の際には、県産木材の使用はなく、国内外から調達した木材が使用された。

今回の復元に関して、首里城正殿の小屋丸太梁の一部について使用が決定され、また、化粧材等の一部に県産材利用が検討されている。

県はオキナワウラジロガシの調査から調達、収穫伐採箇所への造林の計画、首里城正殿以外への県産木材の利用について提案するとともに、森林資源の循環利用の重要性の発信を行っている。

今回はその取組内容について報告する。

 

 

 

07(P2共通)

「首里杜地区のまちづくり」について -新・首里杜構想による歴史まちづくりの推進-

宮下草伸(沖縄県土木建築部)

 

沖縄県では首里城の復元はもとより、首里城に象徴される歴史・文化の復興につなげていくため、令和3年3月に首里城復興基本計画を策定し、「新・首里杜構想による歴史まちづくりの推進」を基本施策の一つとした。

「新・首里杜構想(R3.3)」とは、首里城が周囲のまちや環境と一体的な存在であることを示した「首里杜構想(S59)」の理念を引き継ぎ、社会環境の変化や地域のニーズなどを踏まえ見直した構想である。構想に基づき、地区の目指す姿や具体的な施策をとりまとめたのが「首里杜地区整備基本計画(R4.4)」であり、中城御殿や円覚寺の整備推進、渋滞対策や龍潭線街路整備など30以上の関連事業を位置づけ、計画期間(R4~R13)におけるロードマップを整理している。

計画実現に向け、地域、事業者、学術機関、行政などで構成する「首里杜まちづくり推進協議会(R4.9)」を設立しており、関係主体が連携しまちづくりに取り組むこととしている。

 

 

 

 

ポスターセッション

 

P01

首里城再興学術ネットワークの紹介

昆 健志(琉球大学研究企画室)・首里城再興学術ネットワーク事務局

 

首里城再興学術ネットワークは首里城再興に学術面から貢献するネットワークとして、2020 年に琉球大学において発足した。首里城再興に向けた課題は多岐にわたっており、県内の大学、研究機関を核に広範囲な学術ネットワークを構築することにより、教育や研究面で首里城再興に貢献することを目指している。

琉球大学では2020年度から「首里城再興学術研究プロジェクト」を立上げ、計14の研究プロジェクトを実施しており、2021年度より学部生向けに「琉大首里城講座」を開講した。また、首里城関連の学内外の情報をメ ールマガジンと SNS で発信する他、関係機関と連携し、学生、県民、地域社会とともに首 里城再興を考える場としてシンポジウムを開催している。

首里城再興学術ネットワークシンポジウムは、2021年度の第3回目より、沖縄県および沖縄県立芸術大学と共催し、ポスターセッションの導入をはじめとして、多様な分野の発表を基にした活発な意見交換の場の構築を目指している。

 

 

 

P02(02共通)

首里城美術工芸品の現状とこれから ~修理と人材育成~

 幸喜 淳(沖縄美ら島財団総合研究センター)

 

1. はじめに

令和元年10 月31 日未明に国指定史跡で世界遺産でもある首里城跡にて火災が発生し、首里城正殿等を含む主要復元建物群が焼失・損壊しました。建造物の火災に伴い、施設内に保管されていた美術工芸品についても被害がありました。

令和2年度の各分野の専門家による調査の結果、1,510点の美術工芸品のうち、1,119点が焼失を免れましたが、絵画や漆器、染織の多くに、熱や水害などの影響による劣化が見られました。

2. 修理状況

火災から3年が経過し、昨年度より本格的な修理事業がスタートしました。火災による被害は、特に漆器の数が多く、280点を超え、被害の程度の重度な資料と軽度な資料を組み合わせて実施したとしても、修理にかかる期間も20年以上になるのではないかと考えられるほど、長期間に渡ります。そのため、安定的に修理を行っていけるよう修理技術者の人材育成が重要となります。沖縄県立芸術大学等の関係団体と協力し、修理技術者の育成を行っていきたいと考えています。

3. 人材育成事業

首里城再建に向けた取り組みの中で、人材育成の重要性が様々な場所から述べられました。琉球王国時代の伝統技術は、活用機会の少なさもあり、現在では技術継承が困難な状況です。沖縄美ら島財団では、令和2年度より文化庁の交付を受け、沖縄の伝統的建造物に必要な【漆塗装】【手作り赤瓦の製作と瓦葺き】についての技術伝承者を養成する事業を開始しました。

首里城再建や建造物文化財の安定的な補修等のため、引き続き人材育成活動を実施していきたいと考えております。

 

 

 

P03(03共通)

ヨーロッパに所蔵されている沖縄染織品調査について

新田摂子(沖縄県立芸術大学 芸術文化研究所)

 

沖縄県立芸術大学芸術文化研究所 伝統工芸研究室は、2017年・2018年にスイスのMuseum der Kulturen Basel、2019年ドイツのDeutsches Textilmuseum Krefeld、オランダのWereldmuseum in Rotterdamで沖縄染織品の調査を行った。

その結果、ヨーロッパの沖縄染織品には、日本本土や沖縄の博物館等に所蔵されている裂と同一とみられる裂が複数所蔵されていることがわかった。つまり、元々1つの衣裳が解かれて裁断され、ヨーロッパ、日本本土、沖縄に分散して所蔵されていると考えられる。

そこで、ヨーロッパに沖縄染織品をもたらした美術商J.Langewis(ランゲウィス)について調べた。その結果、彼は1952年から1958年に来日し、日本の染織品を蒐集していたこと、また沖縄まで足を運んでおらず、日本本土で沖縄染織品を蒐集したことがわかった。

今後は、J.Langewisによる日本での沖縄染織品の蒐集方法、日本本土とヨーロッパへの沖縄染織品の受容についても研究を進め、ヨーロッパにおける沖縄染織品コレクションの形成について明らかにしたい。

 

 

 

P04

琉球紙を含む和紙の繊維形状に着目した数理物理的解析と持続可能な研究エコシステムの開発

野村広大(琉球大学理学部)・玉城良仁(琉球大学大学院理工学系研究科)・

小林理気(琉球大学理学部)・福本晃造(琉球大学教育学部)

 

本プロジェクトの目的は、琉球紙を含む日本で古来から利用されてきた和紙に着目し、その和紙が作成された年代、地域、作成手法や原料に関する情報をその和紙の繊維の物理形状から推測する方法を考案することであり、その手法を介して沖縄の歴史研究や文化財研究に貢献する文理融合型研究を目指す.今回は琉球紙を含む「新板日本の紙上巻・下巻:全日本手漉き和紙見本帳(全日本手すき和紙連合会)」の358和紙サンプルについて解析を行う。また、琉球文化資源の自然科学的分析研究を持続させるための地域 と連携した研究エコシステムの開発にも取り組むことで、職業科学者ではない一般の市民の方々も参加可能なシチズンサイエンスへの発展に繋げて行くことを最終目標とする。

 

 

 

P05

修学旅行生がWeb上で学べる「沖縄の伝統工芸」学習プログラムの開発

杉尾幸司・金城 満(琉球大学教育学研究科)

 

沖縄観光はコロナ禍で深刻な打撃を受けおり、コロナ後の再興を見据えた新たな視点での取り組みを進めていく必要がある。夏場以外の閑散期に客数が確保でき、若年層が今後のリピーター客となることが期待されてきた修学旅行であるが、「旅行牽引世代」(10代後半~30代)を対象に実施した最新の調査によれば、修学旅行のみで沖縄を訪れた場合の再訪意向が低いことが明らかになり、沖縄を深く知り、興味・関心を高めるための修学旅行になるような創意工夫が必要であると提言されている(沖縄振興開発金融公庫・日本交通公社、2022)。そのため、本研究では、修学旅行の新たな創意工夫として「学ぶ観光」としての修学旅行の価値に着目し、修学旅行生が、沖縄の伝統工芸(陶芸・紅型・織物・漆器等)についてWeb上で学べる学習プログラムの開発を行う。

 

 

 

P06

首里の地域探索 –首里巡検の紹介

沖縄県立首里高等学校(ポスター掲示のみ)

 

沖縄県立首里高等学校は、首里城跡の麓に位置し、琉球王朝第二尚氏15代国王の尚温王が、「優れた人材を育成し、国の発展につなげる」との思いを込めて、王国の最高学府「国学」となる公学校を本校敷地に創建したのに源を発しています。本学では毎年2学年の全生徒を対象に地歴公民授業の一環として、首里近郊の史跡・世界遺産について学習する首里巡検を実施しています。

首里の歴史や文化遺産について生徒たちはテキストで自主学習し、それをもとに生徒自身のガイドで首里城周辺を視察する体験学習の形式をとっています。この取組みは、首里の歴史、文化、芸術、環境等への理解を深めるだけではなく、生徒の主体的な学習態度の育成や大学等で何を学びたいかを考える機会に繋がっています。

 

 

 

 

 

P07(05共通)

首里城正殿復元に向けた首里城瓦に関する調査研究(試作試験)

花城可英・宮城雄二(沖縄県工業技術センター)

 

首里城の復元に向けて、国と沖縄県は連携して取組を進めており、工業技術センターは首里城瓦に関する研究を実施しています。

当センターはこれまで、瓦原料の調査、原料配合試験、焼成条件の検討を実施しており、今回その結果を元に沖縄県赤瓦事業協同組合の協力により、首里城瓦の試作を行いました。

原料配合から荒地作成までを当センターで、各瓦工場において既存の瓦金型を使用してプレス成形、乾燥、通常の赤瓦と同時焼成を行いました。その結果、各瓦工場で焼成した試作瓦の吸水率は10%前後と仕様案である吸水率12%以下となっています。

工業技術センターは今後、沖縄県赤瓦事業協同組合へ技術支援を行い、首里城瓦の安定的な生産に向けて、協力していきます。

 

 


P08

未来の首里城等修復材の確保に向けた取組について

今田益敬(沖縄県農林水産部)

 

国の「首里城正殿等の復元に向けた工程表(2020年3月27日)」において、「チャーギ(イヌマキ)及びオキナワウラジロガシについても、引き続き、調達可能かどうかの調査を継続し、使える材があった場合には、可能な限り活用する」との報告がなされている。また、県の首里城復興基本方針でも「国や関係機関と連携し、県産材等の調達ができるよう取り組む」としている。

そのため、県では、首里城正殿の小屋丸太梁に使用可能なオキナワウラジロガシについて、現地調査を行い、3本を確保した。伐採箇所については、地元の小学生が作った苗木を植栽予定である。また、県や国頭村では、将来の首里城正殿の復元材の調達を見据え、平成6年度からオキナワウラジロガシの造林を行っており、令和3年4月時点で2千本以上の樹木の生育が確認されている。

このように、現存する森林資源を消費するだけでなく、将来にわたる材の確保を含め、再生可能な森林資源の循環利用の重要性について発信を行っている。

 

 

 

P09

破損瓦の機械的性質と高強度セラミックスへの再利用について

神田康行(琉球大学工学部)

 

首里城は14世紀ごろに建設されたといわれる歴史を有しています。そのため、破損瓦の機械的性質の測定データは、考古学およびセラミックス分野の学術的観点から、後世への記録として貴重と考えられます。また、破損瓦は、微粉砕することにより、セラミックスとして再利用できる可能性を有しています。そこで、本研究では、首里城破損瓦の機械的性質を測定し、破損瓦を微粉砕した粉末を放電プラズマ焼結(SPS)に適用した高強度セラミックスの成形加工を検討しました。破損瓦の機械的性質として、ビッカース硬さと曲げ強度を測定し、SPS成形体の曲げ強度は、高い値を示すことがわかりました。

 

 

 

P10

理化学的分析による首里城採取瓦の研究成果とオープンサイエンスへの展望

山極海嗣(琉球大学島嶼地域科学研究所)・青山洋昭・平良 渉(琉球大学研究基盤統括センター)・

昆 健志(琉球大学研究企画室)

 

瓦は首里城のもつ独特な景観を作り出す重要な要素の一つである。その琉球の瓦は、13〜14世紀ごろに登場し、現在に至るまで独自の進化を遂げてきた。これまでの琉球瓦研究では、文様・形態・記銘などの研究が先行する一方で、素材や技法に関わる理化学的なデータは少なく、外見的要素以外の情報は殆ど蓄積されていない。本研究では、琉球大学旧首里キャンパス時代に収集され、大学博物館(風樹館)に保管されている14~18世紀の首里城古瓦と、昨年の火災で焼け残った瓦(破損瓦)を用いて、非破壊的な理化学分析によって首里城瓦の性質・機能・製造技術の歴史的変遷を明らかにする。非破壊的な理化学分析として、①デジタル画像を用いた色調の数値化・解析、②蛍光X線分析顕微鏡を用いた元素分析、③産業用X線CTスキャナーを用いた内部構造解析を行った。これらの解析を進めることで、琉球列島の瓦の製造技術・利用文化成立等の考古学的研究に新たな視点を提供できるだろう。

 

 

 

P11

首里城正殿再建に使用する県産木材の基準強度評価プロジェクト

~イヌマキ材の産地による強度の違いと基準強度について~

カストロ ホワン ホセ・尾身頌吾(琉球大学工学部)

 

イヌマキ(方言でチャーギ、キャンギ)は湿度やシロアリに強く、沖縄では古くから高級木材として重宝されてきた。今回の首里城再建プロジェクトにおいても、正殿の一部に九州産イヌマキが使用されることとなった。しかしながら、イヌマキは基準強度が未だ明確に示されていないため、本研究では、イヌマキ材の有する強度特性を明確にすることを目的に、建材利用に向けた検討を行っている。

試験はJIS規格(JIS Z2101)に準拠し実施した。試験体には長崎県産イヌマキを使用し、なるべく欠点を含まないように製材した25mm角の小試験体で行った。試験体寸法は、それぞれ曲げ試験体が25mm×25mm×350mm、圧縮試験体が25mm×25mm×75mmとした。

試験結果として、長崎県産イヌマキ材の曲げ強度は56.4N/mm2、圧縮強度は23.9N/mm2となり、鹿児島県産イヌマキより低い値となった。しかしながら、基準強度値は一般建材として多く使用されているスギやヒノキと近しい値を有しており、建材として十分活用しうることが確認できた。

 

 

 

P12(07共通)

「首里杜地区のまちづくり」について -新・首里杜構想による歴史まちづくりの推進-

宮下草伸(沖縄県土木建築部)

 

沖縄県では首里城の復元はもとより、首里城に象徴される歴史・文化の復興につなげていくため、令和3年3月に首里城復興基本計画を策定し、「新・首里杜構想による歴史まちづくりの推進」を基本施策の一つとした。

「新・首里杜構想(R3.3)」とは、首里城が周囲のまちや環境と一体的な存在であることを示した「首里杜構想(S59)」の理念を引き継ぎ、社会環境の変化や地域のニーズなどを踏まえ見直した構想である。構想に基づき、地区の目指す姿や具体的な施策をとりまとめたのが「首里杜地区整備基本計画(R4.4)」であり、中城御殿や円覚寺の整備推進、渋滞対策や龍潭線街路整備など30以上の関連事業を位置づけ、計画期間(R4~R13)におけるロードマップを整理している。

計画実現に向け、地域、事業者、学術機関、行政などで構成する「首里杜まちづくり推進協議会(R4.9)」を設立しており、関係主体が連携しまちづくりに取り組むこととしている。

 

 

 

 

基調講演

 

復元と文化遺産の価値ー首里城正殿、ノートルダム大聖堂、そしてウクライナ復興も見据えて

河野俊行(九州大学 法学研究員)

 

ノートルダム大聖堂が火災で大きく損傷した半年後、首里城正殿が焼失した。歴史や文化的価値など様々な相違にもかかわらず、人々の被災に対する反応は酷似していた。どちらの建造物も復元の方針が決まり、復元作業が進行中である。これらのことを通して、文化遺産の価値、復元の持つ意味を、個別の事例を超えて議論し、考える機会が与えられた。そしてここでの議論は、戦禍にさらされているウクライナで近い将来始まるであろう復興への貢献が期待できる。

 

 

首里城再興 学術ネットワーク 琉球大学 首里城ネットワーク担当 お問い合わせ先(メール)shuri_net@acs.u-ryukyu.ac.jp