研究トピックス

中琉球と南琉球はやっぱり陸続きだった?

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【要約】

近年では、今日見られる琉球列島の固有種の多くは、中国大陸の別々の地域から異なるタイミングで渡来し、その時期には中琉球(奄美・沖縄諸島)と南琉球(八重山諸島・宮古諸島)は陸続きではなかったという説が有力でした。しかしながら、琉球大学 理工学研究科 大学院生の皆藤琢磨氏と熱帯生物圏研究センターの戸田守准教授によって、ヒバァ類と呼ばれるヘビの仲間の遺伝子を解析したところ、上述の説とは異なり、中琉球と南琉球は陸続きであった時期があり、その頃にヒバァ類は中琉球から南琉球へと分布を広げた可能性が高いということが明らかになりました。

 

【論文情報】

題名:The biogeographical history of Asian keelback snakes of the genus Hebius (Squamata: Colubridae: Natricinae) in the Ryukyu Archipelago, Japan

和訳:琉球弧におけるヒバァ属ヘビ類の歴史生物地理)

掲載誌:Biological Journal of the Linnean Society

                Volume 118, Issue 2, pages 187–199.

   (2016 年 1 月 12日 オンライン版に掲載、5月出版)

著者:Takuma Kaito* and Mamoru Toda

* Corresponding author (責任著者)

 

皆藤 琢磨(琉球大学 理工学研究科 海洋環境学専攻)

戸田 守(琉球大学 熱帯生物圏研究センター 島嶼生物多様性部門 准教授)

 

【概要】

近年、琉球列島が世界自然遺産暫定リストへ追加されたことを受け、琉球列島に分布する数多くの固有種とそれらの進化の歴史について、にわかに注目が集まっています。琉球列島は、かつて列島全体が中国大陸と接続した時期があり、今日見られる琉球列島の固有種の多くは、この時期に大陸から渡来したと考えられていました。ところが、動物の分類学的研究が進むにつれ、近年では、中琉球と南琉球はこの時期には陸続きになっておらず、中国大陸の別々の地域から異なるタイミングで渡来したと考えられています。中琉球と南琉球の動物種の構成が非常に異なっていることが、初期の考えを否定する根拠として挙げられていますが、この違いを遺伝子レベルで定量し、琉球列島の古地理と比較検討した研究はこれまでほとんどありませんでした。

今回、研究グループは、琉球列島に広く分布するヒバァ類と呼ばれるヘビの仲間を材料に、島と島がいつ分かれたのかを、遺伝的手法を用いて推定しました(図1)。その結果、宮古諸島のミヤコヒバァは、実は中琉球に広く分布するガラスヒバァのなかでも沖縄諸島のものに非常に近縁であり、その遺伝的な違いの程度は、沖縄諸島と奄美諸島のガラスヒバァ同士の違いよりも小さいことがわかりました。この種分化を、中琉球と南琉球は陸続きにならなかったとする近年の考え方に沿って考えると、黒潮の流れの方向に逆らって沖縄諸島から宮古諸島へ海を渡ったと考えなければ説明がつかず、むしろ陸続きになっていたとする初期の考え方とよく合致します。一方、ガラスヒバァの集団に目を向けると、奄美・沖縄諸島の間だけでなく、伊平屋島の集団なども、想定されている陸橋の崩壊(すなわち島嶼化)の時期よりもずっと古くに分化したと推定されました。

これらの発見は、琉球列島の陸生脊椎動物の多くが島嶼化に伴って固有化したという従来の見方に対して否定的であり、この地域に数多くの固有種がみられる背景には、海を越えた生物の分散・侵入に起因する種分化や、島嶼隔離によるのとは別の、単一の島嶼内での種分化など、もっと複雑な歴史があることを物語っています。特に、今回、ミヤコヒバァの起源が沖縄諸島側にあることが分かったことで、南琉球の動物相は、台湾と中琉球の双方からの侵入を受けながら形成されたというストーリーが浮かび上がってきます。

 

 

<お問い合わせ>

琉球大学熱帯生物圏研究センター西原研究施設

戸田 守  准教授

E-mail:gekko@lab.u-ryukyu.ac.jp

 

 

写真。ガラスヒバァ(上)とミヤコヒバァ(下)。

今回の研究では、ヘビの仲間であるヒバァ類の遺伝子を比較しました。

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図1。主ヒバァ類における島集団間の分子系統関係と地史との関係。

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